ACP PRP療法は関節の痛みの改善が期待できる新たな治療選択肢

金森 章浩 先生

ご略歴

筑波大学医学医療系整形外科(スポーツ医学)講師 / 筑波記念病院 非常勤医師

プロフィール

筑波大学医学専門学群卒業。筑波大学整形外科レジデンド、米国ピッツバーグ大学 留学、筑波記念病院、筑波県立医療大学 講師を経て現在に至る。

本インタビューの概要

近年、変形性膝関節症の新たな治療選択として、再生医療が選択されるようになってきました。

中でも、患者さんの血液を利用するACP PRP療法は変形性膝関節症に代表される慢性的な関節の痛みを改善する治療として、注目されています。

今回は、膝関節の傷害に関して精通しており、PRP療法についての知識の豊富な金森先生にACP PRP療法についてお話を伺いました。

炎症抑制と軟骨保護作用を高めたACP PRP療法

Q

PRP療法はどんな治療ですか?

A

PRP療法といえば、血液中の成分の血小板に主に含まれる“よい”タンパク質の作用を利用した治療です。


血小板などから放出された成長因子とその他の様々なタンパク質を一緒に供給することにより、異常な炎症による痛みの緩和や、組織の修復が期待され、スポーツ外傷や障害、変形性膝関節症の新しい治療として利用されています。


しかしながら、PRPと一口に言ってもその中身は様々です。

治療目的は同じですが、調整方法によって、PRP中に含まれる成分のバランスが変わり、意図した作用が得られない場合があります。


PRPは日本語で多血小板血漿という名前の通り、主に血小板に由来する成分の作用に期待した治療です。


そのため、血小板が濃縮されると効果が高まるように考えがちですが、血漿(血液の水分を多く含む部分)にも実は有効成分が含まれている他、血小板を濃縮し過ぎると、細胞の老化や分解に関連する成分を多く含む赤血球などが混入しやすくなり、PRPもうまく作用しません。


このようにPRPは血液中の様々な成分の微妙なバランスのもと調整を行う必要があります。

Q

ACP PRP療法はどんな治療ですか?PRP療法と何が違うのですか?

A

ACP PRP療法は、治療効果を発揮できるよう不純物を少なく調整したPRPです。


特に変形性膝関節症の治療に広く利用されています。


調整過程で、血小板の濃縮と同時に炎症の原因になる赤血球と好中球の除去をおこなうことで、抗炎症効果を効果的に発揮できるように調整します。


そのため、PRPの種類によっては注射直後に強い炎症が見られることがありますが、ACP PRP注射後の腫れは非常に穏やかという特長があります。


また、痛みの改善作用は注射後、1-2週からみられることが多いとされています。


その他、15分程度と短時間で治療できるにもかかわらず、少量の血液から不純物を取り除いたPRPを多く精製できることも特徴の一つです。

Q

どのような病気に対してACP PRP療法は有効ですか?

A

代表的なのは、やはり変形性膝関節症です。


ACP PRP療法の変形性膝関節症に対しての研究は進んでおり、作用メカニズムについても分かってきています。


変形性膝関節症の主な痛みの原因の1つは加齢などによる軟骨のすり減りによって発症した関節炎によるものです。


関節炎は主に滑膜にいる細胞の働きによって制御されていますが、ACP PRP療法はその異常化した細胞の働きを正常化することで、炎症や痛みの原因となる物質の生成を抑え、逆にからだの維持に働く物質の生成を促す環境に整えます。


また足関節、股関節、肩関節などの膝以外の変形性関節症にも使用可能です。



その他にもなかなか改善しない筋肉や腱の疾患も効果が期待できます。


筋肉や腱の疾患について、私はテニス肘(上腕骨外側上顆炎)、ゴルフ肘(上腕骨内側上顆炎)、野球肘(肘内側側副靭帯損傷)、アキレス腱炎、足底腱膜炎などの治療を主におこなっています。


筋肉や腱の痛みに対してはステロイド剤を用いることが一般的です。


しかし、ステロイド剤は炎症と痛みに対して即効性のある改善効果を期待できますが、炎症を抑える一方で、組織の治癒に必要な新陳代謝を阻害してしまうというデメリットがあり、繰り返しの使用は慎重を要します。


特に、漁業、農作業など身体を使う仕事やスポーツ活動を行っている方は反復的な身体動作により、同じ個所を何度も痛めてしまうリスクが高く、その度に対処療法的にステロイド剤を打っていると手術が必要となる可能性が高まってしまいます。


そうしたリスクを考えると、安全に炎症を改善し、組織修復を促すACP PRP療法は、休めない体を使ったお仕事をされている方やスポーツ愛好家の方にとっても適した治療法だと思います。

ACP PRP療法の特長

Q

ACP PRP療法はどのくらいから効果を発揮し、どの程度の期間作用するのでしょうか?

A

様々なPRP療法がある中で、ACP PRP療法は早期から作用が発揮されるタイプのPRP療法です。


個人差があるので一概には言えませんが、多くの患者さんは1-2週間頃から効果について実感を得やすいです。


効果の持続性については、3回の治療で1年間痛みを改善する作用があるとされていますが、これも個人差があります。


膝を支える筋力の維持を適切に行うことで、より長期に作用が持続した例もあります。


最近では長期の治療成績も報告されるようになり、手術適応と判明してからでも継続的に治療を受けることで、手術を受けずに十数年間一定の膝の環境を維持できる可能性があるといわれています。

Q

ACP PRP療法の治療方法を教えてください

A

治療回数は基本的に3回セットとして行いますが、仕事の都合やその他の事情などにより、投与間隔や期間、回数は調整可能なため、患者さんによって来院頻度は異なります。


治療当日は上腕から少量(15ml)の採血を行い、採血から15分程度で関節に注射を受けることができます。


筋肉や腱に注射を行う場合は、エコーなどで病変部を確認しながら、注射を行うことが多いです。

Q

ACP PRP療法は安全ですか?

A

ACP PRP療法は患者さん自身の血液を材料としているため、アレルギー反応の心配がありません。


そのため、再生医療の中では安全性が高い治療と言われています。


副作用については、PRPといえば注射後に関節が腫れる場合がありますが、ACP PRP療法は炎症の原因物質を除去しているため、そのリスクも比較的少なく穏やかです。


注射後数時間から2日程度まで治療を受けた関節が重だるく感じる場合がありますが、それも正常な作用過程の1つですので心配はありません。


治療後、歩いて帰っていただいて差支えありません。


筋肉や腱に対して直接ACP PRP療法を行う場合は、狭いスペースの中に液体を注入するので、関節に注射するよりも痛みは強くなります。


それでも、治療後2日程度で痛みは落ち着きます。


注射の際は必要に応じて麻酔を行う場合があります。

Q

ACP PRP療法を受けると、手術をしないで済むのですか?

A

ACP PRP療法は手術に完全に取って替わるような治療ではなく、それぞれ治療目的が異なります。


例えば、変形性膝関節症で言えば、軟骨のすり減りや骨の変形は、現時点で、ACP PRP療法含め注射で行われる再生医療では改善できず、手術以外の方法はありません。


しかしながら、軟骨が薄くなったり、骨は多少変形したりしていても痛みを感じず、日常生活を送ることができる方がいるのも事実です。


ACP PRP療法では、炎症を原因とする軟骨の分解や、変形を抑制することで、患者さんの痛みのない活動的な日常生活を目指しています。


膝は、骨と軟骨だけでなく、周囲の関節を支える筋肉なども重要な役割を果たしており、膝が痛いから動かないという生活を続けていると筋肉が衰え、病気の進行が促進される可能性があります。


ACP PRP療法で、炎症と痛みを改善することで、運動レベルが改善すれば、相乗的に健全な膝の環境維持に作用することが期待できます。

膝の状態の正確な診断と自身のライフスタイルに合った治療選択を

Q

どのような患者さんがACP PRP療法の適応だと思われますか?

A

年を取り過ぎて体力が乏しかったり、逆に若すぎたり手術の適応とならない場合や、仕事やその他の生活の事情により手術ができない場合は一度検討しても良い治療と言えます。


また、患者さんの望むライフスタイルによってもACP PRP療法は有効な治療選択となります。


例えば、正座などの和式の生活スタイル、アクティブなスポーツ(テニス、登山)を続けたいと考えている方にとっては、人工関節を行っても不満足な結果となる可能性があります。


ACP PRP療法で関節炎のコントロールをしながら、徐々に活動レベルを上げていくことで患者さんの希望するライフスタイルを持続できる可能性があります。

Q

ACP PRP療法が向いていない方もいるのですか?

A

一般的にリウマチなど、全身性炎症疾患の方やがん治療を行っている方や免疫力の低下により、感染しやすい状態になっている方にはこの治療は向いていないとされています。


変形性膝関節症と診断された方でも原因によっては、早期に手術を行った方が病気の進行を抑制できる場合がありますので、専門医と治療方法についてご相談ください。

Q

治療を受けるのに知っておいたほうが良いことはありますか?

A

ACP PRP療法は自由診療となりますので、医療機関によって提供価格が異なり、また、一般的な保険診療に比べると高額になりがちです。


十分説明を聞き、納得した上で治療を受けてください。


また、治療を受ける前は、日常的に使用している消炎鎮痛剤(風邪薬なども含む)を使っている方は、血小板の働きを抑えるものもあるので、担当医師に予め伝え、必要に応じて別の薬を処方してもらうと良いでしょう。

Q

最後に、ACP PRP療法に興味を持っている方にメッセージをお願いいたします

A

以前は、膝に痛みを感じていてもヒアルロン酸注射が効かなくなったら、すぐ手術という選択しかありませんでした。


しかし、今では、ACP PRP療法などの比較的気軽にできる再生医療の選択肢が加わり、痛みを抑え、病気の進行をコントロールすることで、自分の膝のまま生活できる可能性が出てきました。


変形性膝関節症の状態の他、患者さんの望むライフスタイルによって、患者さん毎に適切な治療は異なります。


膝の痛みや違和感がある方は、是非、医師とご自身にとって最適な治療について相談してみてください。