再生医療とは?
再⽣医療の⽬的は、ケガや病気で損なわれたからだの機能を元通りに戻すために、⼈間のからだが持っている「再⽣する⼒」を利⽤し、細胞や組織、臓器の再⽣を行うことです。
ここでは再⽣医療とは何か、またどのような種類のものがあるのか、分かりやすく解説します。
ポイント!
再生医療は人間の「再生する力」を引き出す治療
再⽣医療では細胞や⼈⼯物を使って、もともと⼈が持っている成⻑‧発育する⼒、つまり、「再⽣する⼒」を引き出し治療します。
⼈間は約60兆個もの細胞が集まってできていて、その全ての細胞も元をたどれば⼀つの受精卵から始まっています。
1つの卵⼦が精⼦を受け⼊れ、受精卵となり、それが分裂を繰り返し、神経‧筋⾁‧⾻などの成熟した細胞に姿を変え、組織や臓器が作られていきます。
このような細胞が成⻑する⼒、つまり「再⽣する⼒」を最⼤限に引き出す医療技術のことを再⽣医療といいます。
再生医療に利用される様々な細胞
再生医療では、細胞を使って、治療を行いますが、細胞には様々な種類があり、その種類や役割を解説します。
体細胞と幹細胞
成熟し、組織や臓器になった細胞のことを体細胞といい、これらはからだの特定の組織の維持に働きます。
⼀⽅で、幹細胞は様々な細胞に姿を変える能⼒を持った細胞のことを⾔い、英語でStem cell(ステムセル)と呼ばれます。
Stem(ステム)とは⽊の幹という意味で、幹細胞(⽊の幹)から様々な種類の細胞(⽊の枝)
が分かれ、からだの組織や器官をつくる成熟した体細胞に変化します。
このように1つの細胞が多くの細胞に分かれ、様々な細胞へと変化することを分化と呼びます。
幹細胞の種類
幹細胞にも様々な種類があり、それぞれ異なる役割や性質を持っています。
多能性幹細胞
わたしたちのからだの細胞であれば、どのような細胞でも作り出すことのできる細胞のことを幹細胞の中でも特に多能性幹細胞と言います。
一方で、無限に増殖するため、意図しない細胞に分化するリスクや、ガン化するリスクがあるとされています。
これらの課題を解決するための研究が進められています。
代表的なものは以下の2つです。
ES細胞
ES細胞は、不妊治療の際に使われないことが決まった受精卵(余剰胚)を⼈⼯的に培養して作られます。
どんな細胞にも変化でき、無限に増殖させることができる万能細胞です。
⼀⽅で、他⼈の受精卵を元に造られた細胞なので、この細胞を使った治療を⾏う場合に免疫拒絶反応の⼼配や、また、余剰胚ではあっても新しい⽣命の始まりとなる受精卵を使うため、倫理的な問題があるといわれることもあります。
iPS細胞
iPS細胞はヒトの⽪膚から採取した細胞に遺伝⼦を導⼊して、受精卵のような細胞にリセットすることで、⼈⼯的に造られた細胞です。
ES細胞のような万能性を持っていることが期待されており、患者さん⾃⾝の細胞を使うので免疫拒絶反応の⼼配がなく、ES細胞のような倫理的な問題もなく使⽤することができます。
体性幹細胞
体性幹細胞とは⼀定の限定された種類の細胞になることができる幹細胞です。
細胞治療で⼼配されるガン化の可能性が低く、最も治療応用が進んでいる幹細胞です。
体性幹細胞
体性幹細胞は私達のからだの体細胞に交じって少しだけ存在していて、からだの機能の修復‧維持に働いている幹細胞です。
組織や臓器がケガや病気で損傷すると、正常な働きができなくなった細胞と置き換わったり、分裂して⾃らの数を増やしたりすることにより、からだの機能を修復・維持します。
ES細胞に⽐べると、体性幹細胞の持つ多分化能は限定されていますが、分化能⼒が限定されているため、細胞治療で⼼配されるガン化の可能性が低く、体性幹細胞は古くから治療に利⽤されてきました。
例えば、⽩⾎病などの治療法として⾏われてきた造⾎幹細胞移植もその⼀種です。
様々な組織から採取することができ、それぞれ限定した骨、軟骨、脂肪細胞など限定したいくつかの異なった細胞に分化することができます。
整形外科で行われている再生医療
通常、整形外科では、薬の注射やリハビリなどの治療の他、⼿術により、傷んだ組織を切除したり、正常な組織どうしをつなぎ合わせたり、組織移植や⼈⼯物で補ったりすることで治療を⾏います。
再⽣医療は従来の⽅法では治療が難しい疾患に対しての新たな選択肢として、からだの負担の少ない注射や、⼿術と組み合わせて利⽤されるようになり、患者さんの⽣活の質の向上やケガや病気の根治に向けてさらに期待が⾼まっています。
ここでは、整形外科で⾏われている再⽣医療を紹介します。
⾎液を材料にした再⽣医療
PRP(多⾎⼩板⾎漿)療法
PRP療法とは、患者さんの⾎液を利⽤した再⽣医療です。
⾎液中の生きた体細胞に主に含まれる良いタンパク質の作⽤により、病的な炎症の抑⽌や組織の再⽣促進が期待されています。
近年、整形外科領域ではスポーツ外傷や障害、腰痛、変形性膝関節症の新しい治療として期待されています。
採⾎のみで当⽇に治療が受けられるためにからだへの負担が少ない治療と⾔われています。
また、通常の⼿術だけでは治療が難しい場合などにPRPは⼿術と組み合わせて利⽤されるようにもなってきました。
軟⾻細胞を材料にした再⽣医療
⾃家培養軟⾻移植術
⾃家培養軟⾻移植術とは、患者さん⾃⾝の軟⾻細胞を1回⽬の⼿術で少量採取して、体外で培養し、2回⽬の⼿術で培養された軟⾻を移植して、⽋損した軟⾻を補う⼿術です。
⽋損した軟⾻の⾯積が4㎠以上の外傷性軟⾻⽋損症または離断性⾻軟⾻炎の治療として、すでに保険診療として受けることができます。
体性幹細胞を材料にした再⽣医療
滑膜由来の体性幹細胞移植による軟⾻‧半⽉板の再⽣治療など、体性幹細胞を⽤いた治療は、⼤学病院などの医療機関を中⼼に実⽤化を⽬指して研究が⾏われています。
再⽣医療の安全性を確保する仕組み
再⽣医療は期待が⾼い治療ですが、新しい治療なので安全性を確保しつつ素早く提供されるようにするための法整備が重要でした。
そのため、2014年に 「再⽣医療等の安全性の確保等に関する法律」が施⾏され、再⽣医療を⾏うすべての病院は、専⾨家で構成される委員会による安全性の審査と厚⽣労働⼤⾂への届出が義務付けられるようになりました。
これにより、患者さんに提供される再⽣医療の安全性の⼀定の確保がされています。
再⽣医療のリスク分類と審査過程
第1種再生医療等
ヒトに未実施等高リスクな再生医療
(ES細胞、iPS細胞など)
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特に高度な審査能力を有する、再生医療技術や法律の専門家等で構成される委員会により、再生医療提供計画の審査が行われる。さらに必要に応じて、厚生労働大臣から計画 変更命令などがある場合がある。 |
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第2種再生医療等
現在実施中など中リスクな再生医療
(体性幹細胞など)
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特に高度な審査能力を有する、再生医療技術や法律の専門家等で構成される委員会により、再生医療提供計画の審査が行われる。 |
第3種再生医療等
リスクの低い再生医療
(体細胞を加工など)
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再生医療技術や法律の専門家等で構成される委員会により、再生医療提供計画の審査が行われる。 |
※厚生労働省 「再生医療等の安全性の確保等に関する法律について」を改変
[ 監修いただいた医師 ]
筑波大学医学医療系整形外科(スポーツ医学)講師
金森 章浩 先生