捻挫などアスリートのケガ、慢性的な痛みに対する新たな治療選択肢 ACP PRP療法

杉本 武 先生

ご略歴

おおさかグローバル整形外科病院 整形外科統括部長
スポーツ整形外科部長

プロフィール

大阪市立大学医学部卒業。済生会中津病院、清恵会病院 大野記念病院、整形外科河村医院を経て、現在に至る。

資格認定等

日本整形外科学会専門医、日本スポーツ協会スポーツドクター、Jリーグセレッソ大阪チームドクター、東京オリンピック自転車競技(MTB)メディカル統括、日本整形外科スポーツ医学会代議員

本インタビューの概要

ケガでスポーツを断念したり、慢性化し、プレーしながらも痛みに悩まされるアスリートは少なくありません。

そんなアスリートのケガや疾患に対して、一部のプロアスリートが利用したことが報じられたことから、自分の血液を使った再生医療のPRP療法が一般的にも徐々に知られるようになりました。

近年では、治療の妨げになる成分を更に除去し、純度を高めたPRPであるACP PRP療法が利用できるようになっています。

今回は、スポーツチームドクターとしてアスリートのケガの治療に専門的に携わっている杉本先生に問題となるケガやその治療方法についてお話しを伺いました。

アスリートのケガとPRP療法

Q

問題となるアスリートのケガや疾患はどのようなものがありますか?

A

私はサッカーのチームドクターとして、長年チームのサポートを行ってきましたが、現場で最もよく遭遇するのは足関節の靱帯の捻挫です。


捻挫というと軽いケガのように聞こえるかもしれませんが、実は再発することが多く、初期での根治がとても大切です。


そもそも捻挫とは関節に力が加わっておこるケガのうち、靭帯、軟骨などの骨以外のケガを指します。


競技中の激しいターンやジャンプの着地時などによく生じ、捻挫をすると靱帯が伸び関節の安定性が悪くなるので、そのまま競技を続行すると、また捻挫し、悪化させてしまいます。

Q

アスリートの捻挫の治療にはどのようなものがありますか?

A

受傷直後では、患部の出血や腫脹、疼痛を防ぐことを目的にRICEという安静(Rest)、冷却(Icing)、圧迫(Compression)、挙上(Elevation)の頭文字を取った応急処置方法を行います。RICE処置として副木、弾性包帯、テーピングによる固定をし、患部を冷却、挙上した状態で安静を保ちます。また、治療は重症度によって異なるため、診断が重要です。



捻挫の分類

1度:靱帯のわずかな損傷や伸びた状態

2度:靱帯が部分的に切れた状態

3度:靱帯が完全に切れた状態



診断は、受傷した際の状況の確認や圧痛の有無、関節の動揺性、左右差の確認を行います。加えて、レントゲン検査では、骨折の有無を確認します。また、必要に応じて超音波検査やMRIで靭帯損傷の程度を確認します。治療の基本は保存療法(手術以外の治療)となり、保存療法には、ギプスなどによる固定療法と早期運動療法があります。


1度の場合では、応急処置を適切に行えば当日~3日程度で競技復帰可能です。


2度の場合では、装具(サポーター)やテーピングを行う必要があります。足のひねり動作を防ぎながらリハビリを行っていき、一般的に競技復帰までは2~4週間かかります。


3度の場合では、ギプスや装具でしっかり患部の固定を行うか、まれに手術により断裂した靱帯の縫合を行います。通常競技復帰まで2か月ほどかかります。競技復帰に際しては、テーピングやサポーターにより、予防を行う場合があります。


これらに加えて、プロアスリートを中心に、早期の競技復帰や慢性化してケガの治りが悪くなるのを回避する目的で、ACP PRP療法などの再生医療が注目されています。

早期復帰したいが、手術を避けたいアスリートの新たな治療選択肢

Q

ACP PRP療法について教えてください。

A

PRP療法、正式には多血小板血漿(Platelet-rich plasma:PRP)療法は血液を利用した手軽な再生医療として、プロアスリートを中心に利用されるようになった背景があります。


ACP PRP療法はPRPに含まれる赤血球や好中球などの炎症成分を更に取り除き、純度を高めたPRP療法の一種です。


最近の研究報告ではその安全性と組織の治癒過程の促進可能性があることが示されており、アスリートや愛好家のスポーツ外傷・障害に対する治癒促進治療として一般的になってきました。

ACP PRP療法について調べる

Q

なぜアスリートのケガや疾患にACP PRP療法を行うようになったのですか?

A

アスリートは厳しい練習や競技活動により、身体を限界まで酷使しています。


通常であれば治るケガであっても、試合を延期することができず、酷使し続けた結果、早期のリタイヤに追い込まれたケースなどを目の当たりにしてきました。


そういったアスリートの故障リスクを少しでも減らしたいという思いから、目立った副作用もなく、治癒期間の短縮や再発抑止が期待できる有益な治療の一つとしてACP PRP療法を行うようになりました。

Q

どのようなケガや疾患に対してACP PRP療法は効果があると考えていますか?

A

スポーツ外傷では、代表的には捻挫(靱帯損傷)や肉離れの治癒促進及び、再発抑止に効果があると考えています。


また、陳旧性のスポーツ障害、例えば、テニス肘や野球肘、ジャンパー膝、足底腱膜炎などの組織の治癒活動を活性化させ、症状の緩和や根治の可能性があると考えています。


水が溜まってしまった関節(関節水腫)の炎症を抑え、水腫を抑制する効果も期待できます。


その他、一般的には変形性膝関節症などの関節症の治療も行うことも可能です。

ACP PRP療法の具体的な治療手順やメリット・デメリットについて

Q

ACP PRP療法の治療の流れを教えてください。

A

治療は少量の血液から短い待ち時間で、当日受けていただくことが可能です。


まずは治療の予約を行い、当日に採血、血液の加工の間15分程度お待ちいただきます。治療の準備ができたら、患部に注射を行います。注射箇所によって、正確を期す為、超音波画像装置で確認しながら注入を行います。箇所によっては注射後に痛みがあるので、麻酔を使用する場合があります。その場合は事前にご説明いたします。

Q

ACP PRP療法のメリットとデメリットは何ですか?

A

メリットは治療自体の安全性が高いことに加えて、短時間で注射で治療が行えるため、競技活動からの長期離脱が難しいアスリートに適した治療といえます。


逆にデメリットはほとんどありません。唯一あるとすれば、手の届きやすい再生医療とは言え、自由診療となるため保険診療と比べると治療費が高額になりがちな点です。

Q

ACP PRP療法を受けられない患者さんはいますか?

A

自己免疫疾患や癌の既往のある方は治療を受けていただくことができません。


また、年齢制限はありません。

Q

治療後どのくらいでスポーツ活動を開始できますか?

A

ケガの程度によりますが、重度の捻挫(靱帯損傷)の場合では平均で2週間程度治療期間が短くなることを経験します。


また、復帰後もACP PRP療法を行った方が、競技活動中に痛みを訴える可能性が少なくなっています。

Q

ACP PRP療法を受けた後の変化や治療前後の生活上の注意点などはありますか?

A

ACP PRP療法を受けた2-3日程度は活発な細胞代謝により、患部が腫れたり、痛みが出る場合があります。そのため、血行が促進されるような長時間の入浴、激しい運動、飲酒は避けることが望ましいです。


また、患部の痛みが取れた後は元の身体機能を取り戻すため、リハビリーテーションを行うことが大切です。


その他、頓服や痛み止めの内服薬などには、ACP PRP療法の効果の妨げになるものも含まれている可能性があります。医師に申告し、必要であれば適切な薬剤に変更する必要があります。

Q

なかなか治らないケガや慢性的な痛みに困っている方へのメッセージをお願い致します。

A

ACP PRP療法は競技という過酷な環境に置かれているアスリートの方々への有力な治療選択肢の一つだと考えます。


ぜひご相談ください。