野球肘・テニス肘に対する新たな治療選択肢 ACP-PRP療法

吉村 英哉 先生

ご略歴

川口工業総合病院整形外科 副院長

プロフィール

東京医科歯科大学医学部卒業。東京医科歯科大学大学院運動器外科学講座卒業 学位取得。川口工業総合病院整形外科部長を経て、現在に至る。

資格認定等

医学博士、日本整形外科学会 整形外科専門医 日本スポーツ協会 公認スポーツドクター、日本スポーツ整形外科学会 評議員、NPO法人 埼玉メディカルサポート 理事長、セコムラガッツ チームドクター

本インタビューの概要

肘の痛みは、肘を酷使するスポーツを行うアスリートに限らず、職業、生活動作などにより生じることもあるため、アスリート以外の一般の方で悩まされている方が多くいます。

今回は、スポーツチームドクターとしてアスリートから一般の方の診療まで広く携わっている吉村先生に問題となる病気やその治療方法についてお話しを伺いました。

よくある肘の病気とACP-PRP療法

Q

よくある肘の痛みの原因となる障害にはどのようなものがありますか?

A

私がアスリートや一般の方の診療を行う中で、診療の中で最もよく遭遇するのは“野球肘”と“テニス肘”という病気です。


野球肘はその名の通り、野球で行われる繰り返しの投球動作により肘を痛めるスポーツ障害の総称です。


特に成長期の小中学生の野球選手によく見られます。


一方、テニス肘は中年以降のテニス愛好家に生じやすいのでテニス肘と呼ばれています。


テニスという名前がついていますが、テニスに限らず、ゴルフ、バドミントンなどの他のスポーツでもよく生じます。また、繰り返す動作が多い労働や家事でも起きます。


手や腕への繰り返される負担から生じる、肘の痛みを特徴とした病気です。

Q

野球肘にはどのようなものがありますか?原因は何ですか?

A

野球肘と一口に言っても実際はいろいろな種類があります。肘の痛む部位から内側型、外側型、後方型の3つに分けられます。



肘の内側が痛くなるもの
投球時に肘の内側に牽引力(ものを引っ張る力)がかかると筋肉や靭帯が伸ばされるため、細かい損傷が生じます。

これを繰り返すと、ダメージが蓄積するため、肘の内側を押したときの痛みや腫れ、投球時の痛み、肘の関節の可動域が制限される、小指側のしびれなどの症状がでます。重症化すると肘の内側の骨が剥がれてしまう場合や靭帯が緩み、球速の低下、遠投の距離の低下などの投球障害が起こる可能性があります。



肘の外側が痛くなるもの

ボールを投げるときには、肘が外側にひねる動作があり、この過程で骨と骨がぶつかり合います。

すると肘の外側が痛い、肘が曲げ伸ばしできないといった野球肘になります。

代表的な障害は離断性軟骨炎といい、関節軟骨の一部が剥がれ落ちたり変形したりします。



肘の後ろが痛くなるもの
投球の際、肘が伸びる瞬間や、肘の曲げ伸ばしを繰り返す過程で骨同士が何度も擦れたり、ぶつかったりすることで、肘頭疲労骨折や肘頭炎などが発生し、肘の後ろ側が痛くなるのが特徴です。

Q

野球肘(内側側副靭帯損傷)について教えてください。また、治療はどのように行いますか?

A

内側側副靱帯損傷の症状は、投球時の肘の内側の痛みです。


日常動作では無症状のことがほとんどですが、重症例では日常動作で肘がぐらつく感じや痛みを感じる場合があります。


また、手の小指側にしびれが生じることもあります。


診断は、投球時の痛み、肘関節の内側を押したときの痛みの有無の確認の他にレントゲン撮影を行う検査や関節造影検査、MRIにより総合して行います。


野球肘の根本原因は肘の使い過ぎと誤った投球動作です。


そのため、治療は基本的には投球活動の禁止による休息に加え、下半身や体幹、肩まわりなど全身の柔軟性や筋力の改善・強化を行ないながら、段階的に肘周囲の筋力の強化、投球動作のチェックなど総合的に行います。


通常は1-3か月取り組んで半数以上の人は良くなります。


しかしながら、それでも肘の問題が解決しなければ、一般的にその原因によってハイドロリリースやステロイドを行います。


ハイドロリリースは癒着した組織を薬液によって剥離することにより動きを良くする目的で行われます。


また、局所の炎症に対しての治療選択肢としてはステロイドが一般的ですが、副作用もあるので、最近ではACP-PRP療法などの自分の血液を使った再生医療も治療検討対象となってきます。

Q

テニス肘とはどのような障害ですか?原因は何ですか?

A

テニス肘は通称であり、正式名称は上腕骨外側上顆炎と言います。


上腕骨外側上顆とは、肩から伸びている上腕骨下部の外側にある出っ張った部分を指します。


この上腕外側上顆には手首を動かし、指を伸ばすための筋肉が重なるように付いており、その筋肉の付け根(腱)に炎症が起きたものがテニス肘(上腕骨外側上顆炎)です。



原因は詳細には分かっていませんが、腕を酷使することで、上腕外側上顆に付着している腱に過度の負担により生じた細かい亀裂や炎症に加え、加齢などにより腱自体が脆くなっていることも原因の一つと言われています。


また、最近では肘の筋肉と密接についた関節包(関節を覆っているヒダのようなもの)の炎症も関わってきていると言われています。

Q

テニス肘の治療はどのように行いますか?

A

テニス肘の治療は、基本的に理学療法によりマッサージやストレッチを加えてで痛みを抑える治療や外用内服薬、薬液の注射等が一般的です。安静を心がけ、症状が落ち着くまでは、発症のきっかけとなったスポーツや活動は一時的に中止しましょう。



野球肘と比較すると中高年の患者が多いので難治例に陥るケースが多いと知られています。


難治例になると理学療法や前述のハイドロリリースではなかなか改善が望めず、最近では体外衝撃波やACP-PRP療法が有望な治療として注目されています。

早期復帰したい、手術を避けたい患者さんへの新たな治療選択肢

Q

ACP-PRP療法について教えてください。

A

PRP療法、正式には多血小板血漿(Platelet-rich plasma:PRP)療法は血液を利用した手軽な再生医療として、プロアスリートを中心に利用されるようになった背景があります。


ACP-PRP療法はPRPに含まれる赤血球や好中球などの炎症成分を更に取り除き、純度を高めたPRP療法の一種です。


最近の研究報告ではその安全性と組織の治癒過程の促進可能性があることが示されており、アスリートや愛好家のスポーツ外傷・障害に対する治癒促進治療として一般的になってきました。

ACP PRP療法について調べる

Q

なぜ野球肘やテニス肘にACP-PRP療法を行うようになったのですか?

A

野球肘その名の通り、野球選手がかかりやすい障害の一つです。


野球の特に投手は練習や試合により、肘を酷使しています。


安静にすれば治る障害であっても、試合を延期することができず、酷使し続け、苦しい思いをしている選手を数多く目の当たりにしてきました。


そういった選手の故障リスクを少しでも減らしたいという思いから、目立った副作用もなく、治癒期間の短縮や再発抑止が期待できる有益な治療の一つとしてACP-PRP療法を行うようになりました。


また、テニス肘については中高年の長年肘の痛みと付き合ってきた難治例の方が多く、これまでの治療法に限界を感じている中で、諸外国で先行して注目されている治療ということもあってすぐに採用を決めました。

ACP PRP療法の具体的な治療手順やメリット・デメリットについて

Q

ACP-PRP療法の治療の流れを教えてください。

A

治療は少量の血液から少ない待ち時間で、当日受けていただくことが可能です。


まずは治療の予約を行い、当日に採血、血液の加工の間15分程度お待ちいただきます。


治療の準備ができたら、患部に注射を行います。注射箇所によって、正確を期す為、超音波画像装置で確認しながら注入を行います。


箇所によっては注射後に痛みがあるので、麻酔を使用する場合があります。


その場合は事前にご説明いたします。

Q

ACP-PRP療法のメリットとデメリットは何ですか?

A

メリットは治療自体の安全性が高いことに加えて、短時間で治療が行えるため、競技活動からの長期離脱が難しいアスリートに適した治療といえます。


逆にデメリットはほとんどありません。

唯一あるとすれば、手の届きやすい再生医療とは言え、自由診療となるため保険診療と比べると治療費が高額になりがちな点です。


Q

ACP-PRP療法を受けられない患者さんはいますか?

A

自己免疫疾患や癌の既往のある方は治療を受けていただくことができません。


なお、年齢制限はありません。

Q

ACP-PRP療法を受けた後の変化や治療前後の生活上の注意点などはありますか?

A

ACP-PRP療法を受けた2-3日程度は活発な細胞代謝により、患部の腫れや痛みが見られる場合があります。


そのため、血行が促進されるような長時間の入浴、激しい運動、飲酒は避けることが望ましいです。


また、患部の痛みが取れた後は元の身体機能を取り戻すため、リハビリーテーションを行うことが大切です。


その他、頓服や痛み止めの内服薬などには、ACP-PRP療法の効果の妨げになるものも含まれている可能性があります。


院外でそのような薬を服用している場合は医師に申告し、必要であれば適切な薬剤に変更する必要があります。

Q

肘の痛みに困っている方へのメッセージをお願い致します

A

ACP-PRP療法はアスリートやなかなか肘の痛みが改善せずに悩んでいる一般の方にとっての有力な治療選択肢の一つだと考えます。


また、肘に限らず、肩の痛みや膝の痛みにも有効な治療だと考えます。


痛みに悩まれている方はぜひご相談ください。